
薬疹とは
薬疹(やくしん)とは、薬を服用または注射した後に現れる皮膚の発疹やかゆみなどのアレルギー反応です。
多くの場合は、薬を飲み始めてから数日~数週間以内に症状が出現します。抗生物質や解熱鎮痛薬、抗てんかん薬など、さまざまな薬が原因となり得ます。
薬疹の症状は、じんましんのような赤い発疹や斑点、丘疹(水ぶくれを伴わない小さな盛り上がり)、時には全身に広がる紅斑(皮膚の赤み)など、多岐にわたります。また、かゆみを伴うことが多く、日常生活にも支障をきたすことがあります。
一般的な薬疹は薬の中止で改善することが多いですが、中には重篤な薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群など)もあり、早期の判断と対応が必要です。自己判断で薬を続けてしまうと、症状が悪化し命に関わる場合もあります。そのため、薬による皮膚トラブルが起こった場合は、速やかに医療機関を受診することが大切です。
薬疹の症状・特徴
薬疹は、皮膚に現れる症状の種類や出現のタイミングにより多様なパターンがあります。
主な皮膚症状
- 紅斑(赤み)
多くは左右対称に出現します - 丘疹(ぶつぶつ)
赤く盛り上がった発疹 - かゆみ
ほとんどの症例で伴います - じんましん様の発疹
比較的短時間で広がることも - 全身性の発疹
顔・体・四肢に広がることもあります
重症型の薬疹にみられる症状
- 発熱
- 目の充血
- 口内炎や粘膜のただれ
- 水ぶくれや皮膚の剥がれ
- 全身のだるさ、倦怠感
- リンパ節の腫れ
- 肝機能障害や血液検査異常
注意が必要な疾患
- スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)
- 中毒性表皮壊死症(TEN)
- 薬剤性過敏症症候群(DIHS)
薬疹の原因
薬疹の原因は、その名の通り「薬」によるものです。
どの薬が原因になるかは個人差がありますが、以下のような薬剤が原因としてよく知られています。
薬疹を起こしやすい主な薬剤
- 抗生物質(ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系など)
- 解熱鎮痛薬(アスピリン、イブプロフェン、アセトアミノフェンなど)
- 抗てんかん薬(カルバマゼピン、フェニトインなど)
- 抗がん剤や免疫抑制剤
- 降圧薬、利尿薬、糖尿病治療薬 など
薬疹の多くはアレルギー反応によるものです。特に「遅延型アレルギー(Ⅳ型アレルギー)」と呼ばれる、薬の摂取から数日~数週間後に発症するものが主です。また、稀に薬の代謝産物や不純物が体内で反応を起こすこともあります。
薬疹は、ある日突然発症することがあるため、「今まで問題なく使えていた薬」でも注意が必要です。
薬疹の検査

薬疹の診断には、問診と視診が非常に重要です。
皮膚症状の出現時期や、服用した薬の種類・期間、持病や体質などの情報をもとに、総合的に判断します。
主な検査内容
- 服薬歴の確認
いつから、どの薬を飲み始めたかを詳細に確認
市販薬やサプリメントも対象になります - 皮膚の観察(視診・触診・ダーモスコピー)
発疹の種類・分布・かゆみの有無などをチェック - 血液検査
白血球の増加、肝機能・腎機能の異常の有無を確認 - アレルギー検査
薬疹の診断は、問診・視診などで行う場合がほとんどですが、被疑薬が多く特定が困難な場合のみ、詳細な検査を行います。必要な場合は専門病院に紹介させていただきます。 - パッチテスト
皮膚に薬剤を貼って反応を調べる - DLST(リンパ球刺激試験)
血液を用いて薬剤に対する反応を調べる
薬疹の治療
薬疹の治療で最も大切なのは、原因となった薬の中止です。
まずは疑わしい薬剤をすぐに中止し、それ以上症状が悪化しないように対応します。
薬疹の基本的な治療法
- 原因薬の中止
これが第一選択です。自己判断で薬を止めるのではなく、必ず医師と相談してください。 - 抗ヒスタミン薬の内服
かゆみやアレルギー性の発疹を抑える効果があります。 - ステロイド外用薬
発疹が広範囲・重度の場合に用いられます。 - ステロイドの内服や点滴
中等度~重度の症状、全身症状がある場合に使用されます。 - 保湿剤や冷却処置
症状が軽い場合の補助的なケアとして行います。
重症薬疹の場合
- 入院治療が必要になることがあります。
- 皮膚の広範な剥離や粘膜障害、発熱などがある場合は専門施設での治療が必要です。
- 内臓障害や血液検査異常のモニタリングも行います。
治療中の注意点
- すでに発症した薬疹は、薬を止めても数日間は悪化することがあります。
- 薬疹の治癒には数週間かかることもあります。
- 自己判断で薬の再開は絶対にしないでください。
薬疹をほっとくとどうなる?

薬疹を「そのうち治るだろう」と軽く考えて放置するのは非常に危険です。
軽症であれば薬の中止だけで自然に治まることもありますが、薬疹には重症化するタイプも存在し、適切な治療が遅れると命に関わる場合があります。
放置によるリスク
- 症状の悪化
発疹が全身に広がる
かゆみや痛みが強くなる - 重症型薬疹への進行
スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)
中毒性表皮壊死症(TEN)
薬剤性過敏症症候群(DIHS) - 粘膜障害や皮膚の剥離
口の中、目、陰部などにただれや潰瘍ができる
皮膚が大きくめくれ、やけどのような状態になる - 内臓への影響
肝臓や腎臓、肺、心臓などに障害を起こす可能性あり
特に「スティーブンス・ジョンソン症候群」や「中毒性表皮壊死症」などの重症薬疹は、入院治療や集中管理が必要で、早期の対応が生死を分けることもある重大な疾患です。
また、薬疹を繰り返すことで、皮膚が色素沈着を起こしたり、薬に対して強いアレルギー体質になってしまうこともあります。こうした合併症を避けるためにも、発疹が出たら放置せず、早めに皮膚科を受診することが重要です。