
アトピー性皮膚炎について
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が慢性的に繰り返される皮膚の病気です。乳幼児期に発症することが多いですが、成人になってから発症したり、子どもの頃に症状が治まっていたものが再発したりすることもあります。
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能(外からの様々な刺激、乾燥などから体を保護する機能)が低下していることが原因の一つと考えられています。皮膚のバリア機能が低下すると、外部からの刺激を受けやすくなり、炎症が起こりやすくなります。また、かゆみを感じる神経が皮膚の表面まで伸びてきて、かゆみを感じやすい状態となっており、掻くことによりさらにバリア機能が低下するという悪循環を起こしてしまいます。
また、アトピー性皮膚炎の方は、アレルギー反応を起こしやすい体質であることも知られています。ダニやハウスダスト、花粉などのアレルゲンが、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させることがあります。
アトピー性皮膚炎は、慢性的な病気であり、完治させることは難しいと言われています。しかし、適切な治療とスキンケアを行うことで、症状をコントロールし、日常生活に支障をきたさないようにすることは可能です。
アトピー性皮膚炎の原因
アトピー性皮膚炎の原因は、まだ完全にはわかっていませんが、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
主な原因として、以下の3つが挙げられます。
皮膚のバリア機能の低下
皮膚は、外部からの刺激や乾燥を防ぐバリア機能を持っています。アトピー性皮膚炎の方はこのバリア機能が低下しており、アレルゲンや刺激物質が皮膚に入り込みやすくなっています。
アレルギー反応
アトピー性皮膚炎の方は、ダニやハウスダスト、花粉などのアレルゲンに対して過剰に反応し、炎症を起こしやすくなっています。
遺伝的要因
アトピー性皮膚炎は、親から子へ遺伝する傾向があります。
ご家族にアトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎にかかったことがある場合、子どもが発症する確率は高くなります。
これらの要因に加え、生活環境や食生活、ストレスなどもアトピー性皮膚炎の症状に影響を与える可能性があります。
アトピー性皮膚炎の診断基準
- 皮膚がかゆい状態である。
- アトピー性皮膚炎に特徴的な皮疹があり、左右対称性にでる、まぶたや口・腕や足の関節部など特徴的な部位に症状が慢性的に繰り返す。
そのほかにも、詳細な問診、身体所見の診察を行い、診断します。
アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎の治療は、症状や重症度、年齢、生活環境などを考慮して、患者さん一人ひとりに合った治療法を選択することが重要です。主な治療法としては、以下のものがあります。
治療のゴールは、「症状がないか、あっても軽く日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達して維持すること」「軽い症状は続くけれども急激に悪化することはまれで、悪化しても症状が持続しないこと」を目指して行っていきます。
外用療法
ステロイド外用薬
炎症を抑え、かゆみを鎮める効果があります。症状に合わせて、強さや種類を調整します。
もっとも効果的に即効性をもって炎症を抑えます。剤型も様々あり、軟膏、クリーム、ローションなどを、使用部位や、本人の好みや塗りやすさで使い分けます。
基本的には、保湿剤と混合せずに、必要な量を保湿後に塗布することが勧められますが、
広範囲で塗るのが大変であったり背中で塗りにくいなどの場合は、保湿剤と混合して処方することもあります。
ステロイドは、副作用もありますが、定期的な医師の診察を受け、適切な(部位や症状にあった)強さのものを、適切な量、適切な期間塗布することで副作用を予防することができます。
決して自己判断で漫然と塗り続けたり、他の人に出されたステロイドを使用するなど行わないようにしていただくのが大切です。
ステロイド外用による副作用として、皮膚が萎縮する、毛細血管が拡張する、にきびができる、赤ら顔を生じるなどの症状がでることがありますが、症状を見ながら薬を調整・減量し、他の薬剤に置き換えていくなどで副作用を生じないようにコントロールしていきます。
プロトピック軟膏(有効成分;タクロリムス)
体の過剰な免疫反応を抑えることで、アトピー性皮膚炎のかゆみや炎症を抑えます。ステロイドとは異なる作用機序ですが、炎症を抑える効果が高いお薬です。ステロイドで懸念される皮膚の萎縮や毛細血管拡張などの副作用はほとんどありませんが、使用開始直後に、灼熱感(ほてり感、ヒリヒリ、かゆみ)を生じる方がいます。使用開始後数日でおさまってきますが、灼熱感が苦手な方は、小児用の濃度の低いプロトピックから開始したり、後述のコレクチム軟膏やブイタマークリームなども選択していきます。
ステロイド外用薬と同様の効果があり、ステロイド外用薬が使えない場合や、長期使用による副作用が懸念される場合に用いられます。
コレクチム軟膏(有効成分;デルゴシチニブ)
2020年から、アトピー性皮膚炎に対して使われるようになった比較的新しい塗り薬です。ステロイドともプロトピックとも異なる働きで、症状を抑えます。細胞内の免疫を活性化するシグナル伝達に重要なJAKの働きを抑えることで、過剰な免疫の活性化を抑制し、症状を改善します。
ステロイド外用薬ほどの強い抗炎症作用はありませんが、ステロイドの副作用を心配することなく、またプロトピックのような灼熱感もないため、比較的軽度な症状の方、目の周りなどステロイドの副作用が出やすい場所、2歳以上のお子様の維持のために使用しやすいお薬です。
ブイタマークリーム(有効成分;タピナロフ)
2024年からアトピー性皮膚炎と尋常性乾癬に保険適応になった外用薬です。
AhR(芳香族炭化水素受容体)を活性化することにより、さまざまな遺伝子に働きかけ、皮膚の炎症を抑制します。
ブイタマークリームは、アトピー性皮膚炎の外用薬では珍しく、1日1回で効果がでるお薬です。ステロイドとは異なる作用ですが、副作用として、毛包炎(にきび)ができやすくなる、まれに薬にかぶれるという症状が起こることがあります。
保湿剤
皮膚の乾燥を防ぎ、バリア機能を改善します。アトピー性皮膚炎の治療の基本であり、症状の有無にかかわらず毎日使用することが大切です。
内服療法
抗ヒスタミン薬
かゆみを抑える効果があります。眠気を引き起こすものと、眠気が少ないものがあります。湿疹の炎症を抑える効果はごくわずかですが、かゆみをやわらげ、掻くことによる症状の増悪を抑え、また日常生活を過ごしやすくする目的で、外用薬の補助的に使用します。
ネオーラル(シクロスポリン)
全身の炎症を強く抑えるお薬です。16歳以上で、かつ既存の治療で十分な効果が得られない最重症の患者さんに処方します。高血圧や、腎機能障害など、長期使用で副作用が生じることがありますので、期間を区切って適切な量を使用する、また、適宜採血や血圧測定を行うことが必要とされます。
JAK阻害薬の内服(オルミエント、リンヴォック)
炎症を強く抑えるJAK阻害薬の内服が保険適応となっています。以前から、関節リウマチに使用されていたお薬ですが、アトピー性皮膚炎にも保険適応になりました。
感染症や全身性の副作用がまれに起こることがありますので、ご希望の患者さまには大学病院または総合病院をご紹介いたします。
注射薬
近年、アトピー性皮膚炎に有効な生物学的製剤という抗体を利用した注射薬が多数開発され、保険適応になっています。デュピクセントやミチーガが代表的ですが、アトピー性皮膚炎の根本的治療薬というわけではなく、使用の中止により再燃も起こります。
長期的に副作用も確認しながら行う必要があり、また高価な治療薬ですので、慎重な投与が必要です。ご希望の患者さまには大学病院または総合病院をご紹介いたします。
スキンケア
適切なスキンケアは、アトピー性皮膚炎の治療において非常に重要です。皮膚を清潔に保ち、保湿を十分に行うことで、症状の悪化を防ぐことができます。
入浴は、ぬるま湯で短時間で行い、刺激の少ない石鹸を使用しましょう。入浴後は、すぐに保湿剤を塗布することが大切です。
生活指導
アレルゲンを避ける、ストレスを軽減する、規則正しい生活を送るなど、生活習慣の改善も重要です。アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる要因を特定し、可能な限り避けるようにしましょう。
アトピー性皮膚炎の予防・日常のケアについて
アトピー性皮膚炎は、完治が難しい病気ですが、日々のケアをしっかり行うことで、症状をコントロールし、快適に過ごすことができます。
スキンケア
- 保湿
アトピー性皮膚炎のケアで最も重要なのは保湿です。入浴後だけでなく、乾燥を感じたらいつでもこまめに保湿剤を塗りましょう。保湿剤は、低刺激で、添加物の少ないものを選びましょう。 - 洗浄
皮膚を清潔に保つことも大切ですが、洗いすぎは禁物です。熱いお湯や刺激の強い石鹸は避け、ぬるま湯と低刺激の石鹸で優しく洗いましょう。 - 衣類
化学繊維やウールなどの刺激の強い素材は避け、綿などの天然素材の衣類を選びましょう。
生活習慣
- 睡眠
睡眠不足は、アトピー性皮膚炎の悪化要因となります。質の高い睡眠を十分にとりましょう。 - 食生活
バランスの取れた食生活を心がけましょう。特定の食品がアトピー性皮膚炎の悪化に繋がる場合は、その食品を避けるようにしましょう。 - ストレス
ストレスは、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させることがあります。ストレスをため込まないように、リラックスできる時間をつくりましょう。 - 住環境
ダニやハウスダストは、アトピー性皮膚炎の悪化要因となります。こまめな掃除を心がけ、清潔な住環境を保ちましょう。 - 温度・湿度管理
室内の温度や湿度を適切に保ちましょう。乾燥しすぎると皮膚のバリア機能が低下し、アトピー性皮膚炎が悪化しやすくなります。
その他
- 爪を短く切り、掻きむしらないようにしましょう。
- アトピー性皮膚炎が悪化しやすい時期や状況を把握しておきましょう。
- 定期的に皮膚科を受診し、医師の指示に従いましょう。
これらのケアを継続することで、アトピー性皮膚炎の症状をコントロールし、QOL(生活の質)を向上させることができます。
大人のアトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、子どもの病気と思われがちですが、大人になってから発症したり、子どもの頃に症状が治まっていたものが再発したりするケースも少なくありません。大人のアトピー性皮膚炎は、子どものアトピー性皮膚炎とは異なる特徴があります。
大人のアトピー性皮膚炎の特徴
- 顔や首など、露出した部分に症状が出やすい
- かゆみが強く、慢性化する傾向がある
- ストレスや生活習慣の影響を受けやすい
- 皮膚の乾燥が強く、バリア機能が低下している
- 他の皮膚疾患を合併することがある
大人のアトピー性皮膚炎の治療
大人のアトピー性皮膚炎の治療は、子どもの場合と同様に、薬物療法、スキンケア、生活指導などが中心となります。しかし、大人の場合は、仕事や家事など、生活上のストレスや、睡眠不足、不規則な食生活などが症状に影響を与えることが多いため、これらの要因を改善することも重要です。
また、大人のアトピー性皮膚炎は、顔や首など、人目につきやすい部分に症状が出やすいという特徴があります。そのため、見た目の問題から、精神的なストレスを抱えてしまう方も少なくありません。治療を行う際には、患者さんの精神的なケアも大切です。
花小金井駅前スキンクリニックでは、症状や生活環境に合わせて、最適な治療法をご提案いたします。お気軽にご相談ください。