
掌蹠膿疱症について
掌蹠膿疱症(読み方:しょうせきのうほうしょう)は、手のひらや足の裏に小さな水ぶくれ(膿疱)がたくさんできる皮膚の病気です。この膿疱は、かゆみや痛みを伴うことがあり、見た目も気になるため、日常生活に支障をきたすこともあります。
掌蹠膿疱症は、比較的まれな病気で、原因は完全にはわかっていません。しかし、細菌やウイルス感染、金属アレルギー、喫煙、ストレスなどが関与していると考えられています。この病気は、慢性的な経過をたどり、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すことが多いです。また、関節炎を合併することがあります。
掌蹠膿疱症は、見た目や症状から、水虫や手湿疹と間違えられることがあります。しかし、水虫は白癬菌というカビが原因で、手湿疹はアレルギー反応が原因です。掌蹠膿疱症はこれらの病気とは異なるため、自己判断で治療せずに、皮膚科専門医を受診して正確な診断を受けることが大切です。
掌蹠膿疱症の原因
掌蹠膿疱症の原因は、まだ完全にはわかっていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。
細菌やウイルス感染
かぜや歯周病、扁桃炎、副鼻腔炎などの感染症がきっかけで発症するケースもあるようです。
金属アレルギー
歯科金属やアクセサリーなど、金属が原因で発症するケースも報告されています。
ストレス
ストレスが症状を悪化させる要因となることがあります。
喫煙
掌蹠膿疱症の患者さんの多くは喫煙者であるという報告があり、喫煙が症状を悪化させる要因の一つと考えられています。
遺伝
家族に掌蹠膿疱症の方がいる場合、発症するリスクが高くなるという報告があります。
これらの要因が単独で、あるいは複合的に作用して掌蹠膿疱症を発症すると考えられています。掌蹠膿疱症は、免疫システムの異常が関わっていると考えられており、体内の炎症反応が手のひらや足の裏に過剰に現れることで、膿疱が形成されると考えられています。
掌蹠膿疱症の治療
掌蹠膿疱症の治療は、症状や重症度、原因となる可能性のある因子などを考慮して、患者さん一人ひとりに合わせて行われます。
残念ながら、掌蹠膿疱症を完全に治す方法はまだ確立されていませんが、症状をコントロールし、寛解(症状が軽減または消失した状態)を目指すことが治療の目標となります。
主な治療法としては、以下のものがあります。
外用薬
- ステロイド外用薬
炎症を抑え、かゆみや赤みを軽減します。
症状が強い時期は、ランクの強いステロイドでしっかり炎症を抑えます。 - 活性型ビタミンD3外用薬
皮膚の細胞の増殖を抑え、炎症を抑制します。症状が落ち着いているときに使用します。
ステロイド外用で症状が落ち着いてきたら、副作用の少ない活性型ビタミンD3を継続的に外用します。
内服薬
- ビタミンA誘導体 (例:チガソン)
皮膚のターンオーバーを調整し、皮膚の角化を正常化させます。副作用として、口唇炎や皮膚の乾燥などがみられます。また、肝機能の異常をきたすことがあるので、定期的な採血が必要です。催奇形性があるため、妊娠中・近い将来妊娠を予定している女性には禁忌となります。 - 免疫抑制剤 (例:ネオーラル)
免疫の働きを抑え、炎症を抑えます。副作用として、腎機能障害や血圧上昇などがみられます。掌蹠膿疱症では、保険適応になっていませんが、日本皮膚科学会のガイドラインにおいて効果認められるため治療選択肢の一つとして推奨されています。 - ビオチン製剤
ビタミンB群の一種で、皮膚や粘膜の健康維持に役立ちます。掌蹠膿疱症への効果は明確に証明されていませんが、一部の患者さんで有効とされています。 - 生物学的製剤
生物学的製剤とは、生体由来の物質あるいは生物の機能を利用して製造された医薬品のことです。
定期的な注射により症状を改善しますが、費用が高く、また感染症のリスクが高まるため慎重な投与が必要です。
※当院では、生物学的製剤の取り扱いがないため、ご希望の方は、大学病院または総合病院へ紹介をさせていただきます。
光線療法
ナローバンドUVBや、エキシマライトは、中波長紫外線(UVB)の中の安全な狭い範囲の波長の紫外線を照射することで、患部だけに効果的に作用させます。当院では、エキシマライトを使用し、高出力の中波長紫外線を照射し、効果的な治療を行っています。
その他
- 生活指導
禁煙やストレス軽減など、生活習慣の改善を指導します。 - 食事療法
特定の食品が症状を悪化させる場合があるので、食事内容の見直しを指導します。 - 併存疾患
掌蹠膿疱症の方は、通常より糖尿病や甲状腺疾患などの合併症が多いという報告があります。定期的な健康診断や、内科の通院による併存疾患のコントロールも必要になります。
治療の効果や副作用には個人差があります。医師とよく相談し、自分に合った治療法を見つけることが大切です。
掌蹠膿疱症の予防・日常のケアについて
掌蹠膿疱症は再発しやすい病気であるため、治療と並行して、日常生活の中で予防やケアを心掛けることが大切です。
- 禁煙
喫煙は掌蹠膿疱症の大きなリスクファクターです。禁煙することで症状の改善や再発予防が期待できます。 - 金属アレルギー
金属アレルギーが疑われる場合は、原因となる金属を特定し、接触を避けるようにしましょう。
歯科治療で使用している金属が原因の場合は、金属アレルギーパッチテストなどを行い、原因となる金属を取り除くことで掌蹠膿疱症の症状が軽快することがあります。 - ストレス
ストレスを溜め込まないように、リラックスできる時間を作る、趣味を楽しむなど、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。 - バランスの取れた食事
免疫力を高めるために、栄養バランスの取れた食事を心がけましょう。
高脂肪食や、血糖の急激な上昇をきたす食事が症状の悪化を起こすことがあります。過度な糖分や脂肪の摂取は控えましょう。コーヒーやチョコレートなどを控えることも効果的な場合があります。 - 規則正しい生活
睡眠不足や疲労は免疫力を低下させ、症状を悪化させる可能性があります。十分な睡眠と休息をとり、規則正しい生活を送りましょう。
掌蹠膿疱症にヤクルトは効く?
インターネット上では、「掌蹠膿疱症にヤクルトが効く」という情報を見かけることがあります。
これは、ヤクルトに含まれる乳酸菌の一種である「L.カゼイ・シロタ株」が、腸内環境を整え、免疫力を高める効果があるためと考えられています。
腸内環境と皮膚の状態は密接に関連していることが知られており、腸内環境が悪化すると、皮膚のバリア機能が低下し、炎症が起こりやすくなることがあります。そのため、腸内環境を整えることは、掌蹠膿疱症の症状改善に役立つ可能性があります。
しかし、現時点では、ヤクルトが掌蹠膿疱症に直接的な効果があるという医学的な根拠は十分ではありません。
ヤクルトは、健康的な飲料ではありますが、掌蹠膿疱症の治療薬ではありません。掌蹠膿疱症の症状でお悩みの方は、医療機関を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。
当院では、掌蹠膿疱症の治療として、症状や原因に合わせて、外用薬、内服薬、光線療法などを組み合わせて行っています。また、生活習慣や食事の指導なども行い、患者様一人ひとりに合った治療法を提供しています。掌蹠膿疱症でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。